東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)1号 判決
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決取消事由について検討する。
1 本件商標が別紙1のとおり「すわき」の平仮名文字と「後楽」の漢字との結合よりなることは当事者間に争いないところ、その音数、語調及び表示態様(個々の文字の大きさがほぼ同じであつて、横一列に配置されていること)等から考えると、これを不可分一体の商標とみることには何の妨げもないと言うべきである。
この点につき原告は、本件商標の要部は「後楽」にあると主張する。しかしながら、本件商標の構成は前記認定のとおりであつて、本件商標中の「すわき」部分が被告代表者の氏「洲脇」を平仮名で表記したものであることは弁論の全趣旨に徴して明らかであるが、「スワキ」と呼ばれる氏は極めて珍しい氏であるうえ、これが漢字の「後楽」に対置して平仮名で表示されているためこの部分も需要者の注意を強くひくから、「後楽」は岡山市あるいは東京都文京区所在の著名な庭園等を強く連想させることを考慮しても、需要者に対し「すわき後楽」が一体に結合した商標としての印象を与えるものというべく、特に「後楽」の部分が独立して商標としての自他識別機能を有するとはいえないから、本件商標においては「後楽」が要部をなすとの原告の主張は、採用できない。
そうすると本件商標の称呼は「スワキコウラク」であつて、「コウラク」の称呼を生ずる余地はなく、一方引用商標は別紙2のとおり「後楽」の漢字を縦書きしてなるものであつて、引用商標から「コウラク」の称呼が生ずることは当事者間に争いがないところ、「スワキコウラク」が引用商標の称呼「コウラク」に類似しないことは明らかであるし、前述のように強い印象を与える「すわき」を含む「すわき後楽」が、単なる「後楽」に類似する観念を生ずるということもできない。なお成立に争いない甲第三号証の一、二によつて明らかなとおり、別紙1のように平仮名と漢字で細く横書きされる本件商標が、別紙2のように漢字のみで太く縦書きされる引用商標と外観を異にすることはいうまでもない。
それゆえ、本件商標の登録が商標法四条一項一一号の規定に違反してされたものに該当しないとした審決の判断は正当であつて、審決に原告主張の違法は存しない。
2 請求人(原告)が本件審判手続においてした本件商標の登録無効の理由は、前記審決の理由の要点3摘示のとおり(このことは、原告の認めて争わないところである。)であつて、その要旨は、本件商標は、本件商標の出願日以前に出願された引用商標と称呼、観念、外観のいずれの点においても類似しており、商標法第四条第一項第一一号の規定により商標登録を受けることができないものであるから、本件商標の登録は無効である、というにある。これに対する審決の認定、判断は、前記審決の理由の要点4摘示のとおりであつて、提出された証拠に基づき本件商標と引用商標とを対比し、両者は称呼、観念、外観のいずれの点においても類似するものではないことを具体的な理由を示して認定、判断したものであつて、審決に判断遺脱の違法はない。
原告は、審決が請求人の請求を棄却しながら、その理由とした主張のすべてを排斥せず勝手に判断したのは、結論(主文)に影響を及ぼす重要な事項につき判断を遺脱したものである旨主張するが、審決が前記のとおり請求人の登録無効の請求に対し、審判における最終的な判断として要求される、その判断の根拠を証拠による認定事実に基づき具体的に明示している以上、その登録無効の理由として請求人が主張するところに従つて逐一判断していないからといつて、審決に判断遺脱の違法があるとすることはできない。
三 よつて、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求はこれを棄却する。
〔編註〕本件に関する商標は左のとおりである。
別紙一
<省略>
別紙二
<省略>